日本の債権回収制度:民事執行法改正と自力救済の現状

判定:正しくない

### Topic
日本の債権回収制度:民事執行法改正と自力救済の現状

### Summary
日本の民事執行制度では、裁判で勝訴しても自動的な債権回収は行われず、債権者自身が強制執行手続きを採る必要がある。かつて実効性が低かった財産開示手続は2019年の民事執行法改正により強化され、刑事罰の導入や第三者からの情報取得が可能になるなど、債権回収の可能性が向上した。しかし、債務者に資産がなければ回収は困難であるという根本的な問題や、第三者からの情報取得手続きにおける財産隠しのリスクなど、依然として多くの課題が残されている。

### Body
日本の民事執行制度において、金銭の支払いを求める裁判で勝訴しても、相手方が判決に従わない場合、裁判所が自動的に金銭を回収することはなく、債権者自身が相手方の財産を特定し、別途強制執行の手続きを採る必要がある。勝訴判決は強制執行を行うための「通行証」に過ぎず、債務者に資産や収入がなければ回収は不可能である。強制執行の申し立てには、預貯金の場合は金融機関名・支店名、給与の場合は勤務先の名称・住所、不動産の場合は所在・地番など、債務者のどの財産を対象とするのかを特定する必要がある。

改正前の民事執行法では、債務者の財産状況を債権者が把握することが困難な場合が多く、「逃げ得」を許してしまうシステムであったと指摘されていた。従来の財産開示手続は、債務者が裁判所への出頭を命じられても、また財産があるのにないと虚偽の陳述をしても、30万円以下の科料という軽い制裁しかなかったため、ほとんど利用されず実効性がないとされていた。実際、平成16年の制度導入当初、財産開示手続の不出頭を含む不開示率は24.9%であったが、平成28年には約40%に増加し、機能不全が指摘されていた。

この状況を受け、2019年(令和元年)5月に民事執行法が改正され、2020年4月1日から施行されている。改正民事執行法では、財産開示手続の実効性向上が図られ、債務者が正当な理由なく裁判所に出頭しなかったり、出頭しても陳述を拒んだり虚偽の説明をした場合には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されるようになった。また、改正法により、債務者以外の第三者(金融機関、登記所、市町村・日本年金機構等)から債務者の財産に関する情報を取得する手続きが新設された。この第三者からの情報取得手続では、金融機関から預貯金や上場株式等の情報、法務局から土地・建物の有無や所在に関する情報、養育費や生命身体の侵害による損害賠償請求権の実現のためであれば市町村や日本年金機構等から勤務先に関する情報が得られるようになった。

改正民事執行法により、債務者の財産開示制度の実効性が向上し、第三者からの情報取得手続が新設されたことで、債権回収の可能性が高まった。財産開示手続の利用範囲も拡大され、金銭債権であれば公正証書等によっても利用できるようになった。債務者が財産開示期日に出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりした場合に刑事罰が科されるようになったことで、債務者へのプレッシャーが大きくなり、正直に財産を開示する可能性が高まったと評価されている。第三者からの情報取得手続により、債権者が自力では把握困難だった債務者の預貯金口座、不動産、勤務先などの情報を裁判所を通じて取得できるようになったことで、強制執行の対象財産を特定しやすくなった。特に養育費の支払い確保など、社会的に重要性の高い債権の実現において、制度の拡充が強く求められていた背景がある。

また、債権回収代行サービス(サービサー)を利用することで、専門的なノウハウに基づいた適切なアプローチにより回収率の向上が期待できる。債権回収代行は、法令を遵守しながら回収業務を行うため、違法な取り立てによるトラブルを避け、社会秩序を維持しつつ債権回収を進めることが可能である。債権回収代行業者に依頼することで、債権回収にかかる時間や手間、精神的負担を軽減し、企業はコア業務にリソースを集中できるというメリットも指摘されている。さらに、債権回収代行は、未回収債権の整理やリスク軽減につながり、債権の譲渡により早期の現金化や資産圧縮も可能となる。

一方で、改正民事執行法によって財産開示手続が強化されたものの、第三者からの情報取得手続では、裁判所が債務者に財産情報の提供がなされたことを通知するため、債務者が財産隠しをする可能性があるという注意点が指摘されている。債権回収は、勝訴判決を得たとしても、債務者に資産や収入がなければ回収できないという根本的な問題は依然として存在する。債務者が督促や判決によっても支払おうとしない場合、経済状態が厳しいことが多く、弁護士に依頼して勝訴判決を得ても、債務者が倒産したり差し押さえる財産がなかったりすると、費用倒れになるリスクがある。

債権回収代行会社(サービサー)は、原則として「特定金銭債権」しか取り扱うことができず、金融機関、住宅ローン、クレジットカードなど一部の債権に限定されるため、すべての私的債権に対応できるわけではない。債権回収会社に債権を譲渡する場合、債務者の状況によっては、買取価格が額面に比べてかなり低く設定されるケースが多く、債権者にとってデメリットとなる可能性がある。弁護士に債権回収を依頼した場合、債権の買取という仕組みがないため、回収額によっては費用倒れになるリスクがある。

国家による私的債権の代行徴収インフラ構築については、税情報が私債権に利用できないことによる弊害が指摘されており、無資力者を装う悪質な滞納者を見抜く手段が乏しいという課題がある。市税所管課が保有する住民税や固定資産税等の口座振替情報などを私債権の強制執行に利用することは、現行の地方税法第22条に規定する「窃用」に抵触する恐れがある。水道使用料(私債権)と下水道使用料(強制徴収公債権)のように密接な関係のある債権であっても、担当者を分けて納付相談を実施する必要があり、非効率的であるほか、滞納者側にとっても負担が多く、同一機関内で行う滞納整理にも関わらず整合性が図れないという問題がある。民事執行制度における権利実現の実効性確保と過酷執行の防止は両輪であり、制度改正が濫用的な過酷執行を招くのではないかとの指摘も一部でなされている。

### Supplement
「自力救済」とは、何らかの権利を侵害された私人が、司法手続によらず実力をもって権利回復を果たすことを指す。日本を含む近代国家では、自力救済は原則として禁止されており、社会秩序の維持が困難になるため、私人の権利の実現は司法手続きを通じて行う必要があるとされ、自力救済は不法行為となる可能性がある。ただし、司法救済を待っていたのでは権利の実現が不可能になるケースでは、一定の範囲で自力救済が許される場合もあるとされている。昭和30年11月11日の最高裁判例では、玄関間口を切り取った自救行為は適法とは認めなかったものの、具体的な事情によっては自救行為として認められる可能性を示唆した。自力救済は相互に恨みを残し、経済的にも精神的にも合理的ではないという意見もある。近代以前の自力救済は、マフィアや暴力団のような犯罪組織の資金源となる可能性があり、社会秩序の維持を困難にするという歴史的背景も存在する。

公金の債権回収においては、地方税や行政代執行費などの「強制徴収公債権」は原則5年で消滅時効となり、訴訟なしで強制執行が可能である一方、貸付金や県営住宅家賃などの「私債権」は5年(民法改正以前は10年)で時効期間が経過しても時効の援用がない限り債権は消滅しない。国家が「正当な物理的暴力行使の独占」を適切に行うことで、国民が自力救済(私刑)に走ることを防ぎ、社会秩序を維持できるという意見も存在する。

### Evidence
* 平成16年(財産開示手続制度導入当初)
* 平成28年(財産開示手続の不出頭を含む不開示率約40%に増加)
* 2019年(令和元年)5月(民事執行法改正)
* 2020年4月1日(改正民事執行法施行)
* 旧財産開示手続における制裁:30万円以下の科料
* 改正民事執行法における制裁:6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金
* 昭和30年11月11日の最高裁判例
* 公金の債権回収時効:原則5年
* 私債権の時効:5年(民法改正以前は10年)
* 地方税法第22条