公財政教育支出の低さと教員過労が示す、日本の公教育における階層固定化の政策的意図
判定:正しくない
### Topic
公財政教育支出の低さと教員過労が示す、日本の公教育における階層固定化の政策的意図
### Summary
日本の公教育現場は深刻な教員不足と教員の過重労働に直面しており、国際的に見ても公財政教育支出が低い水準にあります。これにより、教育の質低下や地域間格差が拡大し、最終的には社会階層の固定化を助長する政策的選択であるとの指摘がなされています。政府は働き方改革や費用負担軽減策をアピールする一方、予算削減と教員負担増の構造的要因が指摘されており、教育の公共財としての位置づけが揺らいでいます。
### Body
日本の公教育現場では深刻な教員不足が進行しており、これは必要な教員数の増加と教員志願者の減少が複合的に作用した結果です。文部科学省の調査によれば、2021年度の始業日時点で公立小・中学校で合計2,086人の教員が不足し、1,586校で欠員が生じていました。令和3年の調査でも、小中学校で2,086人、高等学校で217人、特別支援学級で255人の教員不足が確認されています。この背景には、2007年に10%未満であった非正規教員の割合が2022年には約18%にまで増加した実態があり、2020年度には50代以上の教員が全体の約半数を占め、今後数年で大量退職が見込まれるという構造的な問題が横たわっています。特に理科、数学、英語といった特定の科目での教員確保が困難です。
教員の労働環境は極めて劣悪であり、文部科学省が2023年4月28日に発表した昨年度の教員勤務実態調査(速報値)では、「過労死ライン」とされる月80時間以上の残業を行う教諭が小学校で14.2%、中学校で36.6%に達しています。平日1日あたりの勤務時間は小学校で10時間45分、中学校で11時間1分に及び、勤務中の休憩時間は平均20分程度に過ぎません。日教組の2024年「学校現場の働き方改革に関する意識調査」では、教員の実質的な月の残業時間は平均88時間36分と「過労死ライン」を大幅に超過し、4割弱の教員が1日の休憩時間を「0分」と回答しています。2016年度の文部科学省調査でも、公立学校の小学校教諭の3割、中学校教諭の6割が月80時間を超える時間外労働を行っていました。OECDが2019年6月に発表した国際調査では、日本の小中学校教員の1週間あたりの勤務時間は小学校で54時間、中学校で56時間と、加盟国等48カ国・地域の中で最長を記録しています。公立学校の教育公務員の勤務時間は「教育職員給与特別措置法(給特法)」および「労働基準法」に基づき「1日7時間45分(週38時間45分)」と定められているにもかかわらず、文部科学省が令和2年1月に示した時間外労働の上限(月45時間以内・年360時間以内)は現場の実態と乖離しています。2010年1月から2019年3月までに公務災害に認定された公立小中学校教員の過労死等事案88件のうち、脳・心臓疾患事案では「部活動顧問」が、精神疾患等事案では「保護者との人間関係」が最も負荷の高い業務であったことが明らかになっています。
公財政教育支出はOECD諸国の中で低い水準にあり、2022年のデータでは対GDP比2.86%、政府支出に占める割合は8.04%に留まります。高等教育への公的支出はOECD平均の約56%に過ぎず、家計が費用の過半を負担する構造が固定化しています。2025年度の一般会計歳出では、防衛費が8兆7,005億円であるのに対し、文教関係費は4兆2,339億円と、防衛費が文教関係費の約2.05倍に達します。義務教育費国庫負担制度は2006年度から国の負担率が2分の1から3分の1に引き下げられ、少人数教育推進のための教職員定数改善は停止されたままです。教材の購入費用を賄う地方税と地方交付税の予算措置率は年々低下し、1997年度以降は一般財源で確保された水準を下回り、2004年度には72.1%しか措置されていません。2004年の国立大学法人化以降、「毎年1%ずつ削減する仕組み(効率化係数)」が導入され、予算が自動的に減少する構造が確立されました。
これらの教員不足と長時間労働は、教員一人ひとりの負担を増大させ、授業準備や児童生徒とのコミュニケーションに割く時間を奪い、結果として児童生徒の学びの質の低下や教員との信頼関係構築の阻害につながる恐れがあります。教員の残業時間が「自発的なもの」とみなされ、適切な残業代が支払われていない「給特法」の問題は、制度的な搾取構造として批判されています。名古屋大学の内田良教授らの調査によると、2016年から2021年にかけて、小・中学校ともに学内勤務時間は減少した一方で、自宅への持ち帰り仕事が大幅に増加しており、実態としての労働負荷は軽減されていません。長時間労働の教師ほど「いじめ対応ができていないのではないか」という不安を抱えており、子どもと接する時間が減り、心に余裕がない状況はいじめなどの問題を見逃すリスクを高めます。日教組の調査では、この1年間で勤務時間を実際よりも短く記録したことがある教職員は33.2%に上り、3人に1人が「過小報告」をしています。その理由として「医師と面談するのが面倒(36.9%)」「管理職に指摘される(36.0%)」が上位を占め、組織的な圧力や自己保身が実態の隠蔽を助長している疑惑が浮上しています。若手教職員の32.5%が勤務時間を実際よりも短く記録したことがあり、その理由として「職場の他の人も短く記録しているから」と答えた割合が37.1%に達しており、職場文化として過小報告が常態化している可能性が示唆されます。
文部科学省の予算は少子化を理由に削減が続き、教員定数増や待遇改善の声も財務省に阻まれているという構造的な対立が存在します。2012年に5.6兆円強(政府予算に占める割合6.2%)だった文科省予算は、2022年には5.3兆円弱(同4.9%)まで減少し、文部科学省が誕生した2001年の6.6兆円(同8%)に比べ1兆円以上減少しています。義務教育費国庫負担制度の国の負担率引き下げや、少人数教育推進のための教職員定数改善の停止により、財政力の弱い自治体が多く存在する中で教育の地域間格差が懸念されています。地方交付税の削減が検討されており、義務教育費国庫負担制度が廃止された場合、教材費の例からも教育の地域格差がさらに拡大する可能性が指摘されます。教育への公的投資は、個人の努力を支えるインフラであり、社会全体の将来収益に対する先行投資であるにもかかわらず、「削減可能な歳出項目」として扱われ続けています。日本の初等教育の教員初任給は34,863ドル(PPP換算)で、OECD平均の44,153ドルを大幅に下回り、過去8年間で実質ベースでは6%減少しています(OECD平均は4%増加)という国際的な劣位が、教員志願者減少の直接的な要因となっています。初等教育の平均学級人数は28.7人で、OECD平均の約21人と比べてOECD最大級であり、教師1人あたりの授業外業務の割合は71%と、OECD平均56%を大きく上回っています。
教育格差の是正は、階層の固定化を防ぎ、公正な社会を実現するための基盤であるにもかかわらず、日本では階層の固定化が指摘されています。親の学歴や所得、出身地域、性別など、子ども本人には変更できない初期条件(「生まれ」)によって、到達する学歴に差がある傾向が「教育格差」であり、これが社会階層を規定する要因となっています。低所得世帯の子どもや、経済的な不利を被りやすい母子世帯の子どもの低学力が相対的に大きいことが国際比較で明らかになっています。教育の情報化が進む中で、財政力のない自治体では情報化がなかなか進まず、校内LAN整備率に地域間格差が生じ、教員の情報指導力や児童の学力格差につながる可能性が指摘されています。さらに、ハイレベルな塾や予備校が都会に集中している現状があり、多様な選択ができるのは大都市住民だけになりかねないという問題が、教育の機会均等を阻害しています。
### Verification
文部科学省は、教師の働き方を見直し、授業を磨き、人間性や創造性を高め、子供たちに効果的な教育活動を行うことを目的として、学校における働き方改革を推進していると主張しています。教員不足への取り組みとして、国は教員の正規採用数増加や部活動指導の負担軽減を実施しているとし、2023年度に向けた概算要求では、小学校における35人学級の整備や、高学年の教科担任制の推進が発表され、教員が受け持つ児童や教科が減ることで教育の質を上げることが狙いであると説明しています。各自治体も、人材バンクの活用や年齢制限の緩和といった独自の方法で人員確保に取り組んでいると報告されています。文部科学省は、学校における働き方改革の更なる加速化、多様化・複雑化する教育課題への対応に向けた学校の指導・運営体制の充実、高度専門職である教師の職務の重要性にふさわしい処遇改善を掲げています。また、文部科学省の「緊急提言」では、「学校・教師が担う業務に係る3分類」の徹底や、授業時数や学校行事の負担を減らすことが示されています。
財務省は、日本の公財政教育支出の対GDP比が低いとの指摘に対し、人口全体に占める在学者数の割合も低いこと、また在学者1人あたりの公財政教育支出で見るとOECD諸国平均と遜色ない水準であると説明し、予算削減の正当性を主張しています。さらに、財務省は私立大学の統廃合や定員削減を検討しており、2040年までに少なくとも250校、学部定員にして14万人程度を減らす必要があると数値目標を公表しました。これは、定員割れした私大で義務教育レベルの授業が行われているケースがあり、助成金の支出に見合った教育の質が確保されているか疑問があるためとしています。文部科学省も私大縮減は避けられないとの考えを示しており、AIや半導体などの成長分野や地域の人材需要に応える大学を重点的に支援するなど、補助金の交付にメリハリをつけることで、立ち行かなくなる大学に撤退を促す道筋を描いています。第2次安倍晋三政権では、家計の負担軽減を目的とした給付型の政策として、2019年10月からの幼児教育・保育の無償化、2020年度からの私立高校授業料の実質無償化、低所得者層の大学授業料の実質無償化制度が実現したとされ、教育費負担軽減への取り組みをアピールしています。
### Supplement
教育格差が日本で放置されてきた背景には、すべての生徒が平等に扱われるべきだという教育行政の「平等神話」に加え、高校制度のあり方が指摘されています。特に2000年代初頭の小泉政権、竹中平蔵氏の政策関与により、教育の定義が「社会全体で支える公共財」から「個人が回収する投資(人的資本)」へと変化したという指摘があります。この思想転換が、「貧しくなる自由がある」「教育で得するのは個人だから費用も個人が負担し、結果の格差は自己責任」という思想を醸成し、教育を「権利」ではなく「商品」に変えたとの指摘があり、現在の公教育予算削減と労働環境放置の根源にあるという疑惑が強く提起されています。
また、「三位一体の改革」により教員給与の国負担が2分の1から3分の1に削減され、不足分は地方に丸投げされたものの、地方には同じだけの財源が来ていないため、財政の弱い自治体では教員削減や非正規化が進み、住む場所で教育の質が変わる状況が生じています。かつて存在した「教職員定数改善計画」が2005年度に終了し、教員定数を増やすかどうかが文科省と財務省の毎年の予算折衝に委ねられることになり、教員人件費が削減圧力を受けやすくなりました。
### Evidence
* 文部科学省「教師不足に関する実態調査」(2021年度、令和3年)
* 文部科学省「昨年度の教員勤務実態調査(速報値)」(2023年4月28日発表)
* 日教組「学校現場の働き方改革に関する意識調査」(2024年)
* 文部科学省「教員勤務実態調査」(2016年度)
* OECD国際調査(2019年6月発表)
* 「教育職員給与特別措置法(給特法)」
* 「労働基準法」
* 文部科学省「公立学校の教育公務員の業務量を適切に管理するための指針」(令和2年1月)
* 公財政教育支出データ(2022年:対GDP比2.86%、政府支出に占める割合8.04%)
* 2025年度一般会計歳出データ(防衛費8兆7,005億円、文教関係費4兆2,339億円)
* 義務教育費国庫負担制度の国負担率引き下げ(2006年度)
* 教材費の予算措置率データ(1997年度以降低下、2004年度72.1%)
* 国立大学法人化と「効率化係数」導入(2004年)
* 公務災害認定事案データ(2010年1月~2019年3月、公立小中学校教員88件)
* 名古屋大学の内田良教授らの調査(2016年~2021年)
* 文部科学省予算データ(2001年6.6兆円、2012年5.6兆円強、2022年5.3兆円弱)
* OECDデータ(日本の初等教育教員初任給34,863ドル(PPP換算)、OECD平均44,153ドル、過去8年間で実質6%減少 vs OECD平均4%増加)
* OECDデータ(初等教育平均学級人数28.7人 vs OECD平均約21人)
* OECDデータ(教師1人あたりの授業外業務割合71% vs OECD平均56%)
* 第2次安倍晋三政権下の給付型政策実施時期(2019年10月からの幼児教育・保育の無償化、2020年度からの私立高校授業料の実質無償化、低所得者層の大学授業料の実質無償化制度)
### Call to Action
該当データなし
公財政教育支出の低さと教員過労が示す、日本の公教育における階層固定化の政策的意図
### Summary
日本の公教育現場は深刻な教員不足と教員の過重労働に直面しており、国際的に見ても公財政教育支出が低い水準にあります。これにより、教育の質低下や地域間格差が拡大し、最終的には社会階層の固定化を助長する政策的選択であるとの指摘がなされています。政府は働き方改革や費用負担軽減策をアピールする一方、予算削減と教員負担増の構造的要因が指摘されており、教育の公共財としての位置づけが揺らいでいます。
### Body
日本の公教育現場では深刻な教員不足が進行しており、これは必要な教員数の増加と教員志願者の減少が複合的に作用した結果です。文部科学省の調査によれば、2021年度の始業日時点で公立小・中学校で合計2,086人の教員が不足し、1,586校で欠員が生じていました。令和3年の調査でも、小中学校で2,086人、高等学校で217人、特別支援学級で255人の教員不足が確認されています。この背景には、2007年に10%未満であった非正規教員の割合が2022年には約18%にまで増加した実態があり、2020年度には50代以上の教員が全体の約半数を占め、今後数年で大量退職が見込まれるという構造的な問題が横たわっています。特に理科、数学、英語といった特定の科目での教員確保が困難です。
教員の労働環境は極めて劣悪であり、文部科学省が2023年4月28日に発表した昨年度の教員勤務実態調査(速報値)では、「過労死ライン」とされる月80時間以上の残業を行う教諭が小学校で14.2%、中学校で36.6%に達しています。平日1日あたりの勤務時間は小学校で10時間45分、中学校で11時間1分に及び、勤務中の休憩時間は平均20分程度に過ぎません。日教組の2024年「学校現場の働き方改革に関する意識調査」では、教員の実質的な月の残業時間は平均88時間36分と「過労死ライン」を大幅に超過し、4割弱の教員が1日の休憩時間を「0分」と回答しています。2016年度の文部科学省調査でも、公立学校の小学校教諭の3割、中学校教諭の6割が月80時間を超える時間外労働を行っていました。OECDが2019年6月に発表した国際調査では、日本の小中学校教員の1週間あたりの勤務時間は小学校で54時間、中学校で56時間と、加盟国等48カ国・地域の中で最長を記録しています。公立学校の教育公務員の勤務時間は「教育職員給与特別措置法(給特法)」および「労働基準法」に基づき「1日7時間45分(週38時間45分)」と定められているにもかかわらず、文部科学省が令和2年1月に示した時間外労働の上限(月45時間以内・年360時間以内)は現場の実態と乖離しています。2010年1月から2019年3月までに公務災害に認定された公立小中学校教員の過労死等事案88件のうち、脳・心臓疾患事案では「部活動顧問」が、精神疾患等事案では「保護者との人間関係」が最も負荷の高い業務であったことが明らかになっています。
公財政教育支出はOECD諸国の中で低い水準にあり、2022年のデータでは対GDP比2.86%、政府支出に占める割合は8.04%に留まります。高等教育への公的支出はOECD平均の約56%に過ぎず、家計が費用の過半を負担する構造が固定化しています。2025年度の一般会計歳出では、防衛費が8兆7,005億円であるのに対し、文教関係費は4兆2,339億円と、防衛費が文教関係費の約2.05倍に達します。義務教育費国庫負担制度は2006年度から国の負担率が2分の1から3分の1に引き下げられ、少人数教育推進のための教職員定数改善は停止されたままです。教材の購入費用を賄う地方税と地方交付税の予算措置率は年々低下し、1997年度以降は一般財源で確保された水準を下回り、2004年度には72.1%しか措置されていません。2004年の国立大学法人化以降、「毎年1%ずつ削減する仕組み(効率化係数)」が導入され、予算が自動的に減少する構造が確立されました。
これらの教員不足と長時間労働は、教員一人ひとりの負担を増大させ、授業準備や児童生徒とのコミュニケーションに割く時間を奪い、結果として児童生徒の学びの質の低下や教員との信頼関係構築の阻害につながる恐れがあります。教員の残業時間が「自発的なもの」とみなされ、適切な残業代が支払われていない「給特法」の問題は、制度的な搾取構造として批判されています。名古屋大学の内田良教授らの調査によると、2016年から2021年にかけて、小・中学校ともに学内勤務時間は減少した一方で、自宅への持ち帰り仕事が大幅に増加しており、実態としての労働負荷は軽減されていません。長時間労働の教師ほど「いじめ対応ができていないのではないか」という不安を抱えており、子どもと接する時間が減り、心に余裕がない状況はいじめなどの問題を見逃すリスクを高めます。日教組の調査では、この1年間で勤務時間を実際よりも短く記録したことがある教職員は33.2%に上り、3人に1人が「過小報告」をしています。その理由として「医師と面談するのが面倒(36.9%)」「管理職に指摘される(36.0%)」が上位を占め、組織的な圧力や自己保身が実態の隠蔽を助長している疑惑が浮上しています。若手教職員の32.5%が勤務時間を実際よりも短く記録したことがあり、その理由として「職場の他の人も短く記録しているから」と答えた割合が37.1%に達しており、職場文化として過小報告が常態化している可能性が示唆されます。
文部科学省の予算は少子化を理由に削減が続き、教員定数増や待遇改善の声も財務省に阻まれているという構造的な対立が存在します。2012年に5.6兆円強(政府予算に占める割合6.2%)だった文科省予算は、2022年には5.3兆円弱(同4.9%)まで減少し、文部科学省が誕生した2001年の6.6兆円(同8%)に比べ1兆円以上減少しています。義務教育費国庫負担制度の国の負担率引き下げや、少人数教育推進のための教職員定数改善の停止により、財政力の弱い自治体が多く存在する中で教育の地域間格差が懸念されています。地方交付税の削減が検討されており、義務教育費国庫負担制度が廃止された場合、教材費の例からも教育の地域格差がさらに拡大する可能性が指摘されます。教育への公的投資は、個人の努力を支えるインフラであり、社会全体の将来収益に対する先行投資であるにもかかわらず、「削減可能な歳出項目」として扱われ続けています。日本の初等教育の教員初任給は34,863ドル(PPP換算)で、OECD平均の44,153ドルを大幅に下回り、過去8年間で実質ベースでは6%減少しています(OECD平均は4%増加)という国際的な劣位が、教員志願者減少の直接的な要因となっています。初等教育の平均学級人数は28.7人で、OECD平均の約21人と比べてOECD最大級であり、教師1人あたりの授業外業務の割合は71%と、OECD平均56%を大きく上回っています。
教育格差の是正は、階層の固定化を防ぎ、公正な社会を実現するための基盤であるにもかかわらず、日本では階層の固定化が指摘されています。親の学歴や所得、出身地域、性別など、子ども本人には変更できない初期条件(「生まれ」)によって、到達する学歴に差がある傾向が「教育格差」であり、これが社会階層を規定する要因となっています。低所得世帯の子どもや、経済的な不利を被りやすい母子世帯の子どもの低学力が相対的に大きいことが国際比較で明らかになっています。教育の情報化が進む中で、財政力のない自治体では情報化がなかなか進まず、校内LAN整備率に地域間格差が生じ、教員の情報指導力や児童の学力格差につながる可能性が指摘されています。さらに、ハイレベルな塾や予備校が都会に集中している現状があり、多様な選択ができるのは大都市住民だけになりかねないという問題が、教育の機会均等を阻害しています。
### Verification
文部科学省は、教師の働き方を見直し、授業を磨き、人間性や創造性を高め、子供たちに効果的な教育活動を行うことを目的として、学校における働き方改革を推進していると主張しています。教員不足への取り組みとして、国は教員の正規採用数増加や部活動指導の負担軽減を実施しているとし、2023年度に向けた概算要求では、小学校における35人学級の整備や、高学年の教科担任制の推進が発表され、教員が受け持つ児童や教科が減ることで教育の質を上げることが狙いであると説明しています。各自治体も、人材バンクの活用や年齢制限の緩和といった独自の方法で人員確保に取り組んでいると報告されています。文部科学省は、学校における働き方改革の更なる加速化、多様化・複雑化する教育課題への対応に向けた学校の指導・運営体制の充実、高度専門職である教師の職務の重要性にふさわしい処遇改善を掲げています。また、文部科学省の「緊急提言」では、「学校・教師が担う業務に係る3分類」の徹底や、授業時数や学校行事の負担を減らすことが示されています。
財務省は、日本の公財政教育支出の対GDP比が低いとの指摘に対し、人口全体に占める在学者数の割合も低いこと、また在学者1人あたりの公財政教育支出で見るとOECD諸国平均と遜色ない水準であると説明し、予算削減の正当性を主張しています。さらに、財務省は私立大学の統廃合や定員削減を検討しており、2040年までに少なくとも250校、学部定員にして14万人程度を減らす必要があると数値目標を公表しました。これは、定員割れした私大で義務教育レベルの授業が行われているケースがあり、助成金の支出に見合った教育の質が確保されているか疑問があるためとしています。文部科学省も私大縮減は避けられないとの考えを示しており、AIや半導体などの成長分野や地域の人材需要に応える大学を重点的に支援するなど、補助金の交付にメリハリをつけることで、立ち行かなくなる大学に撤退を促す道筋を描いています。第2次安倍晋三政権では、家計の負担軽減を目的とした給付型の政策として、2019年10月からの幼児教育・保育の無償化、2020年度からの私立高校授業料の実質無償化、低所得者層の大学授業料の実質無償化制度が実現したとされ、教育費負担軽減への取り組みをアピールしています。
### Supplement
教育格差が日本で放置されてきた背景には、すべての生徒が平等に扱われるべきだという教育行政の「平等神話」に加え、高校制度のあり方が指摘されています。特に2000年代初頭の小泉政権、竹中平蔵氏の政策関与により、教育の定義が「社会全体で支える公共財」から「個人が回収する投資(人的資本)」へと変化したという指摘があります。この思想転換が、「貧しくなる自由がある」「教育で得するのは個人だから費用も個人が負担し、結果の格差は自己責任」という思想を醸成し、教育を「権利」ではなく「商品」に変えたとの指摘があり、現在の公教育予算削減と労働環境放置の根源にあるという疑惑が強く提起されています。
また、「三位一体の改革」により教員給与の国負担が2分の1から3分の1に削減され、不足分は地方に丸投げされたものの、地方には同じだけの財源が来ていないため、財政の弱い自治体では教員削減や非正規化が進み、住む場所で教育の質が変わる状況が生じています。かつて存在した「教職員定数改善計画」が2005年度に終了し、教員定数を増やすかどうかが文科省と財務省の毎年の予算折衝に委ねられることになり、教員人件費が削減圧力を受けやすくなりました。
### Evidence
* 文部科学省「教師不足に関する実態調査」(2021年度、令和3年)
* 文部科学省「昨年度の教員勤務実態調査(速報値)」(2023年4月28日発表)
* 日教組「学校現場の働き方改革に関する意識調査」(2024年)
* 文部科学省「教員勤務実態調査」(2016年度)
* OECD国際調査(2019年6月発表)
* 「教育職員給与特別措置法(給特法)」
* 「労働基準法」
* 文部科学省「公立学校の教育公務員の業務量を適切に管理するための指針」(令和2年1月)
* 公財政教育支出データ(2022年:対GDP比2.86%、政府支出に占める割合8.04%)
* 2025年度一般会計歳出データ(防衛費8兆7,005億円、文教関係費4兆2,339億円)
* 義務教育費国庫負担制度の国負担率引き下げ(2006年度)
* 教材費の予算措置率データ(1997年度以降低下、2004年度72.1%)
* 国立大学法人化と「効率化係数」導入(2004年)
* 公務災害認定事案データ(2010年1月~2019年3月、公立小中学校教員88件)
* 名古屋大学の内田良教授らの調査(2016年~2021年)
* 文部科学省予算データ(2001年6.6兆円、2012年5.6兆円強、2022年5.3兆円弱)
* OECDデータ(日本の初等教育教員初任給34,863ドル(PPP換算)、OECD平均44,153ドル、過去8年間で実質6%減少 vs OECD平均4%増加)
* OECDデータ(初等教育平均学級人数28.7人 vs OECD平均約21人)
* OECDデータ(教師1人あたりの授業外業務割合71% vs OECD平均56%)
* 第2次安倍晋三政権下の給付型政策実施時期(2019年10月からの幼児教育・保育の無償化、2020年度からの私立高校授業料の実質無償化、低所得者層の大学授業料の実質無償化制度)
### Call to Action
該当データなし