東京大学の次期総長選考は、ガバナンスの構造的機能不全と選考機関の私物化を示している。
判定:正しくない
要約・結論
教職員意向投票で最多得票の候補が退けられた東京大学次期総長選考は、個人の資質やDEI論といった表層的な議論に留まらず、国立大学法人化以降の「トップマネジメント強化」を名目とした選考機関の私物化と構造的機能不全が本質的な問題である。
判定: 正しくない
トピック
東京大学の次期総長選考は、ガバナンスの構造的機能不全と選考機関の私物化を示している。
要旨
教職員意向投票で最多得票の候補が退けられた東京大学次期総長選考は、個人の資質やDEI論といった表層的な議論に留まらず、国立大学法人化以降の「トップマネジメント強化」を名目とした選考機関の私物化と構造的機能不全が本質的な問題である。
本文
教職員による意向投票で過半数(1,107票)を獲得した染谷隆夫教授を退け、得票数で半数以下(553票)にとどまった藤垣裕子教授が選出された今回の東大次期総長選考は、文科省による選考経緯の検証要請へと発展した。本件の本質は、「女性総長の誕生」や「特定候補の資質」といった表層的な人物論ではない。2004年の国立大学法人化および2014年の法改正以降に構築された「トップマネジメント強化」という美名のもとで、選考機関がどのように私物化され、いかなる利益誘導や保身の構造が機能しているのかという、大学ガバナンスの構造的機能不全にある。
ネットやメディア上で現在可視化されている批判は、主にDEI(多様性・女性登用)アリバイ説と民意の軽視、研究実績・国際競争力(STEM vs 人文社会)の乖離、経済安全保障と対外関係をめぐる懸念の3点に集約されるが、これらは大衆の関心を集めやすい「表層の言説」に過ぎない。
ガバナンスとして最も深刻なのは、総長を選ぶ「総長選考・監察会議」自体の構成プロセスに見られる「権力の自己再生産(インブリーディング)ループ」である。現執行部が経営協議会(学外委員)および教育研究評議会(学内委員)を選任・推薦し、構成された「総長選考・監察会議」が密室で審査を行い、現体制の既定路線を継承・忖度する次期総長を選出する。そして、新体制が再び次代の委員ポストを差配するという循環が起きている。2014年の法改正で意向投票が法的拘束力のない単なる参考情報に格下げされたことで、現場の教職員が異を唱えても、選考会議の数名が結託すれば意向投票1位を合法的に排除できる権限が与えられた。学外委員は学内の内情に精通していないため、実質的には現執行部が事前に吹き込む情報や推薦に左右され、選考会議は現執行部にとっての都合の良い追認機関と化している。
選考会議や大学幹部が文科省の検証や議事録の全面開示に強く身構える背景には、「暴かれては困る本丸」が存在する。一つは、過半数を取った1位を落とすため、面接や書類審査で客観的整合性のない極端な採点や後付けで評価項目を動かした形跡が存在する場合、採点シートの開示によって選考の正当性そのものが崩壊する「評価基準の後付け操作」の疑念である。二つ目は、10兆円規模の大学ファンドや巨額の産学連携マネーをめぐり、特定の外部コンサル、参画企業、学外委員の出身母体に都合の良い契約やポストを維持するための「談合的人事」であったという「外部資金・ポストの利益誘導」の疑念。三つ目は、2020年選考で起きた怪文書共有と議事録改ざん問題と同様、学外委員に対して染谷氏を排除するための恣意的な印象操作や非公式なメール・事前協議が行われていた場合の「非公式なネガティブ工作の記録」である。
本件が突きつけている最大の皮肉は、「民間企業のような外部監視(株主や訴訟リスク)もなく、官公庁のような厳格な法規制(公務員倫理法)も受けず、教職員による学内民主主義も無力化された」という、完全なガバナンスの空白地帯が大学内に完成してしまった点にある。「大学の自治」という言葉が、本来の「国家権力からの学問の独立」ではなく、「密室の意思決定に対する説明責任を学内外から免れるための防壁」として悪用されている。文科省の検証要請は、大学の自浄作用が完全に麻痺した結果として招いた外圧であり、選考会議の議事録・評価配点の完全公開、ならびに選考委員の選定プロセスの透明化という根本的な外科手術が行われない限り、この制度的腐敗は繰り返されることになる。
検証項目
- 選考会議の採点シートを開示し、客観的整合性のない極端な採点や後付けでの評価項目変更の有無を確認する。
- 大学ファンドや産学連携マネーに関わる特定の外部コンサル、企業、学外委員出身母体との契約やポストについて、利益誘導や談合的人事の有無を調査する。
- 選考委員に対する恣意的な印象操作、非公式なメール、事前協議の記録の有無を確認する。
補足情報
本件は、民間企業のような外部監視も官公庁のような厳格な法規制も受けず、教職員による学内民主主義も無力化された大学ガバナンスの「空白地帯」が露呈した事例として、選考会議の議事録・評価配点の完全公開と選考委員選定プロセスの透明化が議論の焦点となる。